ホーム・アンド・ジャーニー

ふるさとの珠洲(すず)と、そこから出てそこへと帰る旅にまつわるあれこれ。

日記 2018/04/25

 
 本棚自慢をします。


 
 だいたいこれくらい本があるけど、これだけ集まるきっかけは、たった一冊の本だった。


 
 村上春樹海辺のカフカ』。
 ちょうどそのころ、高校生だったぼくは、それ自体が嫌になってサッカー部(!?)をやめて、暇になっていた。
 放課後デートする彼女もしないし、友達もいないし、いてもみんな部活やってるし、家に帰っても暇だからと、帰りに寄り道して珠洲の本屋「いろは書店」で本を物色することにした。
 新刊の並んでいる棚がある。平積み、表紙見せの並べ方がされている。
 その手前真ん中のやや右寄りのあたりに、この本が平積みされていたのだ。村上春樹久々の新刊だというポップくらいはあったように思う。ただそのころは、今ほど新刊が出たからといって大騒ぎしたり、「ノーベル賞逃す」とニュースになったりするような時期ではなかったと記憶している(15年ほど前の話だ)。ごく静かに、一人気作家の新刊が出たと。
 ぼくはなんとなくそれを手に取った。どこに魅かれたのかはあまり記憶にないが、書き出しの一文かもしれないし、装丁かもしれないし(頁が特殊な薄い加工紙だった)、作家のネームバリューだったかもしれない、がなんとなくそれを買った。
 早速家に帰って読み始めると、それがもう面白くてたまらなかった。
 それまでぼくは、くらだないミステリとかそういうものばかりしか読んでこなかった。もちろん村上春樹自体初めてだった。
 こんな面白い世界があるのか!と衝撃を受けた。
 逐一その詳細は書かないけど、それがぼくと文学との出会いだった。最初にして最大の出会いだった。
 いまだにこれを超える本には出会えていない。なにを読んでも物足りないし、どうしてもこの出会いが忘れられない。
 買った本は2度は読まないぼくだが、これはハードカバーで1回、文庫で2回読んだ。
 その後も村上作品を読み漁り、小説の形式になっているものは、今のところ全部読んでいる。
 ちなみに、こんな面白い本なのだから、早く下巻を買いにいかないと売り切れてしまう、と焦って翌日の放課後に、同様に「いろは書店」に行ったのだが、きちんと前日と同じだけの数の本が置いてあった。これが珠洲の力か!と思い知ったのだった。
 しかし、その最初にして最大の出会いを超えるものに、いつか出会えるだろうかと、いろいろ読んでみるけれど、なかなかだ。出会いというのはそういうものなのだろう。『海辺のカフカ』がなければ、ぼくはアニヲタだったりネトゲヲタだったりになっていたかもしれない。なんとなくそういう風に思う。いや、でも、また別のタイミングで出会っていたのかもしれないけれど。

左上はインドで買ったヤクのぬいぐるみ
“こころのオアシス” いろは書店