ホーム・アンド・ジャーニー

ふるさとの珠洲(すず)と、そこから出てそこへと帰る旅にまつわるあれこれ。

2017年 読んだ本で振り返る

 
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 新年あけましておめでとうございます。画像は昔飼ってた犬です。
 今年も当ブログ「ホーム・アンド・ジャーニー」をよろしくお願い申し上げます。
 
 さて、ぼくは読書メーターというサイトで読んだ本を記録しているのですが、2017年に読んだ本をまとめられるようなのでやってみました。
 以前から読む本にまとまりがなく、自分は一体なにが好きなのだろうと、記録する度に思っていたものです。
 でも、こうして振り返ってみると、徐々に傾向が出てきたなと思いました。
 ひとつは仏教でしょうか。
 以前から興味はあっても、そこまで入り込むことはなかったと思います。でも、いろいろな縁によって流れ流れたところ、今こうして勉強(?)してるのだと思います。
 仏教は面白い。
 ぼくの場合、なにか救いのようなものを求めているという自覚はなくて、人生を生きるにあたっての豊かさというか、面白さ、楽しさを求めているような気がします(救いが必要なのは確かだけど…)。
 これもどこか縁があって、輪島で禅寺をしてる老師とつながりがあるのですが、今年は老師の主催する勉強会(毎月第一水曜日)に参加しています。
 内容は仏教に限らないで、今の時代に読むべき本を取り上げてみんなで読む読書会のようなものです。むしろ今はイスラームを学んでいます。
 今年からも、そういう出会いを大切にしたものです。
 
 それから、今年の後半はミステリばかり読んでいました。
 ネットではあまりいってなかったのですが、7月から長期で入院生活をしていたのです。その期間に読み始めました。
 そもそも、ぼくが本を読み始めたのはミステリが始まり。横溝正史江戸川乱歩、現代では伊坂幸太郎高野和明なんかが好きでした。それが再燃したという感じ。
 なぜそうなったのかを考えていたのですが、ひとつの答えのようなものがあります。
 それは、今の純文学やメインストリームの文学につまらなさを感じていること。
 特に純文学に面白さを感じられなくて。作品自体は読めば面白いのですが、文壇というか、潮流そのものがあまり好きになれない。これは単純に好みの問題です。自分の嗜好が変わったのかもしれません。
 対してミステリというのは、だれかが殺されて、探偵がそれを解決して、あっと驚くような犯人とトリックで、解決して終わりがある。最高じゃないか。平和じゃないか。
 そいうなんの害にもならない、ピースフルな世界がぼくにとって癒しなのだと思っています。
 
 ということで、今年のベスト3。

1位:閻連科『炸裂志』

 純文学に嫌気がさした、と書いておきながら、1位は中国の作家閻連科の新刊。
 この作家は本当にすごいと思っていて、今も追い続けています。
 重厚感のある独特の世界。出てくる人はみんな欲深くて人間らしい。田舎で貧乏しながらも、いつかは瓦屋根の家に住みたい、あいつよりいい暮らしをしたい、愛憎入り交じる群像劇も楽しい。
 中国では発禁処分をたびたび受けていて、それだけに刺激的な(現代の中国社会を批判した)内容です。それでいて読んでいて最高に面白い。
 12月に新刊も出て、これから読むのが楽しみです。

炸裂志炸裂志感想
『愉楽』でファンになった作家。今年でも最高の読書体験になるだろう。人口数千の炸裂村がわずか30年で鎮になり、県になり、市になり、そして直轄市になるまでの市史。その執筆を「唖然とするほどの巨額の報酬」で引き受けた作家閻連科。軍隊が歩いただけで高層ビルが立ち並ぶなど、とんでもない出来事が次から次へと。著者曰く、マジックリアリズムというか「神実主義」では、表面上の因果関係ではなく「内なる因果」に基づいてストーリが進むのだとか。だから、ここに描かれているのは、今の中国の内なる因果とでもいうべきか。注目作家です。
読了日:02月26日 著者:閻 連科

2位:岸政彦『断片的なものの社会学

 これはノンフィクション。社会学者である著者がインタビューしたデータを元に書いた本。
 そこにいる人、そこにある風景が、特別なものになる瞬間がある。
 繋がりを持たなかったら一生なんの意味もない人、モノ、風景…。それが自分と関わった瞬間になにかの意味を持ちだして、急に面白くなる。
 それが文章化されてるものってありそうでない。だから読んでいて本当に面白かったです。
 余談ですが、金沢で岸さんと、『羊と鋼の森』で有名な宮下奈都さんのトークショーに参加してきました。すごく楽しい人で、喋るたびにハイになっていく岸さんが面白かったです。

断片的なものの社会学断片的なものの社会学感想
この本には答えのようなものはなにも書いてない。ただ著者が社会学者としてインタビューで見聞きしたり、普段の生活の中で思ったこと感じたこと、いや「見たもの」がそのままのかたちで差し出されている。ぼくたちはそれを読むだけだ。読んでためになるわけでもなく価値観が変わるわけでもなく、ただそこにあるものに触れるだけだ。でもそれは、触れた瞬間から無条件に自分にとってかけがえのないものとなり、なぜか「面白い」と思うようになる。愛おしい意味のようなものが生まれる。そして、これを読んで社会学を志す人がいるといいな、なんて。
読了日:05月06日 著者:岸 政彦

3位:国分功一郎『中動態の世界 意志と責任の考古学』

 これは以前の記事でも紹介した本。医学書なのでちょっと難しいですが、じっくり読むとすごくエキサイティングで面白い。ミステリといってもいいと思います。
「中動態」という驚くべき態の姿を、丁寧に浮き上がらせてくれます。
 この発見が世界の見方を変えてくれる。そんな本。

中動態の世界 意志と責任の考古学 (シリーズ ケアをひらく)中動態の世界 意志と責任の考古学 (シリーズ ケアをひらく)感想
「中動態」というものがあるらしい。能動態と受動態が幅をきかせる昨今、すっかり失われてしまった態だ。だがそれは確かに現存していて、例えばカツアゲで金を出すという行為が簡単な中動態の例だ。中動態はソクラテス以前は確かに存在していて、さらにいうと、そのころには「意志」というものそのものがなかったという。驚くべきことだ。する・されるという図式に慣れてしまっている我々は、すぐ行為者に意志とか責任とかを負わせたがる。著者はそこに待ったをかける。「話してる言葉が違うんだよね」とは、ある薬物依存患者が発した言葉だという。
読了日:08月03日 著者:國分功一郎
 
 
 本を読むことも旅することだと思っています。精神のジャーニー。
 いろんな発見があって、世界が変わる。今年も、そんな本との出会いがあるといいなと思っています。
 
2017年の読書メーター
読んだ本の数:93
読んだページ数:32246
ナイス数:1073

道元入門-生の充実を求めるために (講談社現代新書)道元入門-生の充実を求めるために (講談社現代新書)感想
いい感じの入門書です。ほどよく正法眼蔵の原文もあるし、説明もわかりやすい。おおまかに理解するにはいいと思います。やはりキーワードは「只管打坐」「本証妙修」なのでしょう。100分de名著でもやってたと知って、それも見たところ、わりと腑に落ちるかたちで理解できた。ただ、それは頭での理解なので、体験を伴わなければ意味がない。これからの生活を道元の思想的に暮らすことで、何か違ってくるかもしれない。迷いも悟りも同じ。生死も涅槃も同じ。修行も悟りも同じ。ただしっかりと迷い、修行し、生き切ること。これからは修行です。
読了日:01月03日 著者:秋月 龍ミン
ザ・クレーター (手塚治虫文庫全集)ザ・クレーター (手塚治虫文庫全集)感想
手塚治虫の怪奇短編集。全て「ザ・クレーター」というシリーズ名がついてるけど、その言葉に特に意味はないみたい。ただ、なんとなく怪しい感じがするし、実際にそのタイトルに惹かれて手に取ったのだけど。しかし、これだけの面白い話を隔週で連載してたのだからすごい。時間、空間、人、あらゆるものがクロスし、そこで生まれる化学反応。自由自在に弾ける漫画は、どれも良かった。特に好きだったのは、夢の中の自分と本当の自分が出会う「二つのドラマ」。夢野久作を思わせるオチが面白かった。それから、戦争への痛烈な皮肉「墜落機」もいい。
読了日:01月07日 著者:手塚 治虫
人生に意味はあるか (講談社現代新書)人生に意味はあるか (講談社現代新書)感想
著者は中学生のとき、何のために生きるのかという問題を持ち、7年間も精神的にぎりぎりの状態で考え続けたという。他の著作を見ると、「意味」という単語の入っていない本はないくらいだ。ぼくは正直、タイトルにある問いにはあまりピンとこない。その問い自体が無意味だと思うタイプだからだ。でも本書には、先人の様々な「答え」を挙げながら、少し違った視点で、著者自身の「答え」が書かれている。ただ、答えというよりは、宇宙が存在することそのものへの発見だ。禅の考えや、最近ぼくが考えてることに通ずるところもあって、興味深く読んだ。
読了日:01月07日 著者:諸富 祥彦
自閉症の僕が跳びはねる理由 (角川文庫)自閉症の僕が跳びはねる理由 (角川文庫)感想
自閉症の人は普段何を考えているかなんて、ほとんど考えたことがなかった。文字にすることでのみコミュニケーションをとることができるという特殊な技術を得た著者は、口に出して話す際も擬似キーボードをタイピングしながら話す。「何度言ってもわからない」と言われたり、思わず叫んだり、周囲に迷惑をかけていることを感じたり、子供言葉で話しかけられたりする度に、彼は自分が不甲斐なく、みじめに思え、生きるつらさを感じたりしているのだ。自分が生きているということに実存的な苦悩を抱えている点では、ぼくたちとなんら変わることはない。
読了日:01月08日 著者:東田 直樹
現代人のための瞑想法―役立つ初期仏教法話〈4〉 (サンガ新書)現代人のための瞑想法―役立つ初期仏教法話〈4〉 (サンガ新書)感想
きちんとした瞑想の本が読みたくて、サンガ新書を手に。ぼくの中では、上座部仏教の考えが片鱗でも知ることができればと思って。本当なら俗世間を離れて修行すべきなのだろうけど、ここでは日常の生活をしながらでも実践できる瞑想法が紹介されている。慈悲のこころで自分を含めた世界中の幸福を祈るサマナ瞑想と、「今ここ」をひたすた実況中継することで、思考という迷妄を捨て去るヴィパッサナー瞑想について、さわりだけどいう感じ。やさしい言葉でその教えを説いてくれるので、おおまかに理解できた。これからもう少し深い内容を勉強したい。
読了日:02月26日 著者:アルボムッレ スマナサーラ
河童が覗いたインド (新潮文庫)河童が覗いたインド (新潮文庫)感想
書いてある内容よりも、そのスケッチ、パースの絵としての凄さに参ってしまう。巻尺だけでサササッとこれだけのパースが描ける人、建築学科や美大を出てもそういないだろう。その観察眼、というか興味力とでもいうべき、河童さんの眼はすごいなと。だから文章も面白い。どんなふうに「覗いた」のかが垣間見れる。さらに、文字部分も手書きなんだけど(表紙参照)、すべてのページできちんと終えるように字詰めとかレイアウトがしてある。それが270ページ以上。…と、労力の凄さを書いてしまったけど、内容も面白いです。
読了日:02月26日 著者:妹尾 河童
炸裂志炸裂志感想
『愉楽』でファンになった作家。今年でも最高の読書体験になるだろう。人口数千の炸裂村がわずか30年で鎮になり、県になり、市になり、そして直轄市になるまでの市史。その執筆を「唖然とするほどの巨額の報酬」で引き受けた作家閻連科。軍隊が歩いただけで高層ビルが立ち並ぶなど、とんでもない出来事が次から次へと。著者曰く、マジックリアリズムというか「神実主義」では、表面上の因果関係ではなく「内なる因果」に基づいてストーリが進むのだとか。だから、ここに描かれているのは、今の中国の内なる因果とでもいうべきか。注目作家です。
読了日:02月26日 著者:閻 連科
インドへ (文春文庫 (297‐1))インドへ (文春文庫 (297‐1))感想
インドは、旅する者によって姿を変える。横尾の旅したインドは幾分スピリチュアルのようだ。カシミールのスリナガルで瞑想したり、相棒の倉橋くんとオールドデリー(人類の巣窟)を歩いたり、乞食への対応に戸惑いを感じたり。その地は、横尾になにを与えたのだろう。文章はとても繊細で、最後の方にも書いてあるとおり、自分の内面への旅を促したのかもしれない。ぼくの見たインドとはやはり違うものを見ている。同日読了の妹尾河童もいうとおり、インドはこうだとはいえない。それぞれにそれぞれのインドがあるだけだ。それほど深いのがインドだ。
読了日:02月26日 著者:横尾 忠則
ギャグマンガ日和GB 2 増田こうすけ劇場 (ジャンプコミックス)ギャグマンガ日和GB 2 増田こうすけ劇場 (ジャンプコミックス)感想
数少ない、バカみたいに声出して笑えるマンガ。「兎と亀」「持込君物語」は思い出しても笑える。この安定感はすごいな。
読了日:03月08日 著者:増田 こうすけ
脳・心・人工知能 数理で脳を解き明かす (ブルーバックス)脳・心・人工知能 数理で脳を解き明かす (ブルーバックス)感想
中盤の専門的な話はさすがに理解できなかったけど、脳の仕組みを数理で解き明かそうという、大まかな枠組みはなんとなく。後半は「心」に迫る。といっても、未だにわかってない話なので、これも(あくまで脳科学人工知能的な知見からの)さわり程度で、ちょっと物足りなかった。また、ところどころの著者の自慢(私がこの分野のパイオニアだ的な)が微笑ましく、好感が持てるのは印象的。う〜ん、個人的に理数系を離れてかなり経つので、ほぼ専門的な理解ができなかったのが惜しいところ。
読了日:03月08日 著者:甘利 俊一
新版 歎異抄―現代語訳付き (角川ソフィア文庫)新版 歎異抄―現代語訳付き (角川ソフィア文庫)感想
うちは浄土真宗の家で、東本願寺にも何度か行ったことがあるんだけど、その教えそのものはほとんど知らなかった。そして、読んだんだけど、灯台下暗しとはこのこと。ある種の感動を覚えたといったら違う気もするけど、すごい教えだと思った。ただ、これ(フィクション?)をそのまま心踊るように信じられるかといったら、微妙だ。そのことをある真宗僧侶に言ったら、「これはあくまで物語。その先にあるものに出会うことです。如来の信心を自分が貰うんじゃなくて、如来の信心の海に自分が入ってゆくのです」と言われた。それで少しわかった。
読了日:03月09日 著者:
騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編感想
村上主義者(ハルキストのこと)としていいたいことは山ほどあるけど、第2部を読み終わるまで待とうかと思います。しかし今のところ……自分個人の内面的な変化なのか、今まで村上作品を読んで感じていたものがこの本にはない。ずっとこの調子だとつらい。
読了日:03月24日 著者:村上 春樹
宝くじで1億円当たった人の末路宝くじで1億円当たった人の末路感想
本屋で衝動買い。いろんな人の辿るであろう末路を、その道の専門家が解説するというもの。基本的にはビジネス書なので、今の時代に合わせた解説がついている。しかし、あとがきがよかった。末路といっても、ネガティブな意味とは限らず、それはそれでいいというスタンスもあり、本書に出てくるような、いってみればマイノリティに対してそれを認める眼差しがある。子供がいなくてもキラキラネームでもバックパッカーしてても、無理に「普通」に合わせることはないし、世間の同調圧力は気にするなというエールがある。そういう読み方をしても面白い。
読了日:04月06日 著者:鈴木 信行
ひとはなぜ戦争をするのか (講談社学術文庫)ひとはなぜ戦争をするのか (講談社学術文庫)感想
アインシュタインフロイトの往復書簡。そんな本があったなんて知らなかった。往復といっても一往復だけど。きっかけは、国際連盟アインシュタインに「いまの文明でもっとも大切だと思う問い」について誰かと意見を交換してくれと頼んだこと。彼が相手に選んだのがフロイト。どちらもドイツに住むユダヤ人で、当時はナチズムの台頭期にあたる。戦争はなくせるのか? 人類は戦争というもの嫌悪を抱いているのになぜ戦争は無くならないのか? アインシュタインの問いに答えるフロイトの平和主義者・精神分析学者としての真摯な姿。解説もいい。
読了日:05月06日 著者:アルバート アインシュタイン,ジグムント フロイト
断片的なものの社会学断片的なものの社会学感想
この本には答えのようなものはなにも書いてない。ただ著者が社会学者としてインタビューで見聞きしたり、普段の生活の中で思ったこと感じたこと、いや「見たもの」がそのままのかたちで差し出されている。ぼくたちはそれを読むだけだ。読んでためになるわけでもなく価値観が変わるわけでもなく、ただそこにあるものに触れるだけだ。でもそれは、触れた瞬間から無条件に自分にとってかけがえのないものとなり、なぜか「面白い」と思うようになる。愛おしい意味のようなものが生まれる。そして、これを読んで社会学を志す人がいるといいな、なんて。
読了日:05月06日 著者:岸 政彦
ギリシャ神話劇場 神々と人々の日々  2 (ヤングジャンプコミックス)ギリシャ神話劇場 神々と人々の日々 2 (ヤングジャンプコミックス)感想
待っていた2巻。でもちょっとワンパターンというかマンネリで、読み切るのに時間がかかった。いちばん笑ったのがテセウスの下手な作文かな。こういう文章系のネタを書かせたら一級品だ。
読了日:05月06日 著者:増田 こうすけ
決定版 真向法―3分間4つの体操で生涯健康 (健康双書)決定版 真向法―3分間4つの体操で生涯健康 (健康双書)感想
体(下半身)を柔らかくすることで、姿勢を整え心身を健康に保つ(健体康心)。たった朝晩3分間、4つの体操で柔らかい体を手に入れることを目指して読みました。続けること。完璧になるまでには何年もかかるけど、一日一ミリ進めればそれでいい。タンポポアスファルトを破るみたいに強く柔らかくなるのだ。
読了日:05月06日 著者:
反応しない練習  あらゆる悩みが消えていくブッダの超・合理的な「考え方」反応しない練習 あらゆる悩みが消えていくブッダの超・合理的な「考え方」感想
ここんとこ、原始仏教関連の書籍をいろいろ読んでいたけれど、これはよかった。瞑想することの意味をシンプルに理解できる。自分の中で起こっている「反応」(無意識に膨らむ考え・妄想)を見つめ、それを早い段階で止めること。難しいけれど、自覚的でありたい。それだけでもずいぶん違うと思う。いい本だった。
読了日:06月15日 著者:草薙龍瞬
光の雨 (新潮文庫)光の雨 (新潮文庫)感想
連合赤軍事件をモデルにしたフィクション。死刑制度が廃止になった2030年。服役していた元死刑囚の爺さんが、その顛末を若い男女の予備校生に語るという内容。なかなか重厚感があって切実だった。主人公の爺さんはその当事者。なん人もの仲間の「総括」に関わっている。彼は死期を悟っていて、自分が死んだらこの事件を知っている人はいなくなり、やがては忘れ去られるという危機感から、力を振り絞るように語り始める。文章力の確かさから、事件の重みが伝わってきた。予定調和のラストが綺麗だ。
読了日:07月20日 著者:立松 和平
ホテル・アイリス (幻冬舎文庫)ホテル・アイリス (幻冬舎文庫)感想
これはいい。エロスというのは、生物が生きているという生々しさ、それゆえのグロテスクな内向性、そんなものと切っても切れない関係にあるということがよくわかる。いや、エロ・グロというのは同義反復なのだと思った。主人公の女の子と男の情事は確かに異常ではあるけれど、よくよく考えてみると、通り一遍のなんでもないセックスをしている我々の方がどうかしているのではないだろうかとさえ思えてくる。いやでもちょっと待て、と自分に言い聞かせる。ラストはちゃんと締まっているものの、読後感は奇妙。
読了日:07月22日 著者:小川 洋子
ボクたちはみんな大人になれなかったボクたちはみんな大人になれなかった感想
これは泣ける。かっこ悪くて、惨めで、情けなくて、救いようがないけれど、それでも人を愛し、愛され、別れ、また…。先の見えない時代に生まれた村上春樹世代のこころを優しく慰めてくれる本だ。「男は過去の自分に用がある。女は未来の自分に忙しい」というフレーズが残っている。ボクたちはこの本を必要としている。
読了日:07月23日 著者:燃え殻
転生回廊―聖地カイラス巡礼転生回廊―聖地カイラス巡礼感想
いつかチベットに行ってみたいと思いながらいるところで、ブックオフの108円コーナーで出会った本。『おくりびと』の原作者青木新門さんのチベット旅行記だ。宗教者ではないけれど、ないがゆえの仏教への憧憬のまなざしの視点で書かれており、心に残るフレーズが多かった。文明が殺したといっていいのかはわからないけれど、文明国が失った宗教的信仰心を求めて、人はチベットに行くのだろう。本国の信者たちの姿を見て、人はなにを思うのだろう。信じるってなんだ? 死んだらどうなるんだ? 生きるってなんでこんなに難しいんだ?
読了日:07月24日 著者:青木 新門
近現代作家集 III <a href=*1" align="left" style="margin: 0 5px 5px 0; border: 1px solid #dcdcdc;" src="https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/51g2Vf2vbbL._SL120_.jpg" />近現代作家集 III *2感想
Ⅲから先に読了。アンソロジーの楽しみを見出せる。なんたって、読書魔の池澤夏樹が編むんだから。このアンソロジーは、Ⅰから順に、作品で取り扱っている時代順に並べられている。Ⅲは戦後(内田百閒)から3.11、そして未来…? 特にどれがよかったというのはないけど、全体として楽しいものだった。時代と文学。
読了日:08月02日 著者:
脳はバカ、腸はかしこい脳はバカ、腸はかしこい感想
著者は自身の腸にサナダムシを飼っているという。今では彼女(ホマレちゃん)は体長3メートルにまで達したそうだ。いやいやいや…と言いたくなるようなぶっ飛んだお人だが、タイトルにある言葉には共感する。脳というのはとにかく愚かなことばかり考えるものだ。自分を不健康に追いやる糖・不良な油・トランス脂肪酸などなど…を欲しては自分を苦しめている。対して腸は、それ自身が考える唯一の消化器官で、腸に優しい食事を心がけていれば、体は健康で若々しくいられるということが書いてある。面白い。ただ時代がまだ追いついてないね。
読了日:08月03日 著者:藤田 紘一郎
中動態の世界 意志と責任の考古学 (シリーズ ケアをひらく)中動態の世界 意志と責任の考古学 (シリーズ ケアをひらく)感想
「中動態」というものがあるらしい。能動態と受動態が幅をきかせる昨今、すっかり失われてしまった態だ。だがそれは確かに現存していて、例えばカツアゲで金を出すという行為が簡単な中動態の例だ。中動態はソクラテス以前は確かに存在していて、さらにいうと、そのころには「意志」というものそのものがなかったという。驚くべきことだ。する・されるという図式に慣れてしまっている我々は、すぐ行為者に意志とか責任とかを負わせたがる。著者はそこに待ったをかける。「話してる言葉が違うんだよね」とは、ある薬物依存患者が発した言葉だという。
読了日:08月03日 著者:國分功一郎
バガヴァッド・ギーターの世界―ヒンドゥー教の救済 (ちくま学芸文庫)バガヴァッド・ギーターの世界―ヒンドゥー教の救済 (ちくま学芸文庫)感想
バガヴァッド・ギーター本体よりもこっちを先に読んでしまった。岩波版で翻訳している上村さんの本だ。わかりやすいというかなんというか、一貫して同じことしかいってないじゃん、って感じだ。上村さんじゃなくてギータ自体が。それは要は、すべてが平等である(善も悪も快も不快も苦も楽もetc…それらはなんら差はなく同じである)ということで、行為のヨーガに専念せよ、と。行為のヨーガというのは、自分に与えられた仕事のこと。それを含むすべてをクリシュナへの捧げ物としてせよ、と。これからギーター本体を読みたい。
読了日:08月07日 著者:上村 勝彦
殺戮にいたる病 (講談社文庫)殺戮にいたる病 (講談社文庫)感想
方々で高評価だったので読んでみたけど、う〜ん、なんだかな。ぼくには叙述トリックというものは合わないようだ。なんだよ、って感じの読後感。アイデアは素晴らしいけど、そうきたか!という驚きはイマイチだった。ホラーってあるけど、あまんまり怖くない。
読了日:09月01日 著者:我孫子 武丸
平家物語 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集09)平家物語 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集09)感想
「書くように語る、語るように書く」という言葉があるけど、これは「踊るように語る」。平家物語の「語り」という部分に賭けてみたという古川日出男の試みは、少なくともぼくの中でヒットした。最初は戸惑うけど、この文体に慣れてくると、その場にライブ感覚でいるような、体が動き出すような感じになる。撥はバンバンなるし、よう! ほう! という掛け声も。物語自体もエキサイティングで、ぐいぐい引き込まれて読み出したら止まらない。平家の栄華から没落に至るまでの、その悲しくも壮大な大河ドラマ。腹一杯に堪能しました。
読了日:09月01日 著者:古川日出男(翻訳)
クラインの壺 (講談社文庫)クラインの壺 (講談社文庫)感想
現実と虚構の境目がわからなくなる感覚。虚構が現実に作用するというテーマは他にもあると思うけど、これはこれで面白かった。クラインの壺というのは、要は現実だったものが虚構になり、虚構だったものが現実になるという、内と外の無限循環の立体版のメタファーなのだろうけど、それがシンプルなだけに複雑さが際立ったのがよかったのかもしれない。ラストが特に。
読了日:09月03日 著者:岡嶋 二人
近現代詩歌 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集29)近現代詩歌 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集29)感想
日本の詩、俳句、短歌の全時代を網羅。一番印象に残っているのは与謝野晶子。文学的才能は女性のものかと思わせられるくらい、とげとげしい感性を持った人だ。『みだれ髪』を買って、今読んでます。
読了日:09月07日 著者:
殺人鬼フジコの衝動 (徳間文庫)殺人鬼フジコの衝動 (徳間文庫)感想
ここにどう書けばいいのか困る。週刊誌の下衆な記事を読むような興味本位で読み始めた本だけど、なかなかつらい内容だった。フジコの生い立ちから殺人鬼に至るまでの道のりが詳細に書かれていて、それがむしろ怖かった。それでいて一応はしっかりしたミステリになってるし、イヤミスっていうんでしょうか、この手のものは初めて読んだけど、「イヤ」の感情を利用した独特の読後感は、それはそれで面白かった。これって、フィクションだよね…?
読了日:10月02日 著者:真梨幸子
能・狂言/説経節/曾根崎心中/女殺油地獄/菅原伝授手習鑑/義経千本桜/仮名手本忠臣蔵 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集10)能・狂言/説経節/曾根崎心中/女殺油地獄/菅原伝授手習鑑/義経千本桜/仮名手本忠臣蔵 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集10)感想
こういう風に、馴染みのなかったものを現代語訳で出してくれると、新しい発見・出会いがあって嬉しくなる。一番よかったのは、桜庭一樹さんの訳の「女殺油地獄」。近松門左衛門作の話の筋も面白かったし、なにより訳がいい。夢中で読ませる、楽しい文章だ。他の方の訳も現代風になっていて、ちょっとやり過ぎなところもあったけど、これを入り口に浄瑠璃をはじめ能・狂言説経節に興味が出る人も多いだろうし、実際ぼくもその一人だ。今度大阪に行ったら、是非とも浄瑠璃を観たい。
読了日:10月02日 著者:
模倣の殺意 (創元推理文庫)模倣の殺意 (創元推理文庫)感想
こんなアイデアよく思いついくよな! とつくずく感心した。とある作家の自殺を殺人事件と見た二人の人物が、それぞれ別の人物を犯人と見立てて追う、という構成。カットバックの手法で、交互に二人の探偵ぶりが描かれる。これが江戸川乱歩賞を逃して、結局時代に埋もれてしまった(何十年も前の本)というのは、なんとももったいない。今再評価れている本だけど、今読んでも面白いと思う。もしかしたらミステリ・マニアの方にはがっかりなトリックかもしれないけど、ぼくは驚いたし、楽しめた。この手のトリックの元祖らしい。
読了日:10月05日 著者:中町 信
インシテミル (文春文庫)インシテミル (文春文庫)感想
ネタバレ含みます。12人の男女が地下の密閉空間で1週間生活するという「実験」のアルバイト。時給は11万2千円。うーん、次々に人が殺されて、これは犯人当ての本格ミステリだな! と思いながら、こいつが怪しいとかいやそう思わせぶりなだけだとか考えながら読んでたけど、最後の方では、『虚無への供物』のようなアンチ・ミステリのような展開になって、いい意味で期待が外れた。作品内で明かされない謎も多く、方々でみんなの見解を覗いてみたら、なかなか面白い意見も。須和名の「指一本」がそういう意味とは…!
読了日:10月07日 著者:米澤 穂信
獄門島 (角川文庫)獄門島 (角川文庫)感想
戦後の日本、離島、保主的で「きちがい」の島民など、横溝正史的世界観に浸る時間が最高。よくミステリのオールタイムベストみたいなのでランクインするだけあって、ストレートな本格ものが楽しめる。ぼくはあいつが犯人かと思ってたんだけど、それはスカしてしまい、なんとも意外な結末だった。文章がすごく論理的ですんなり頭に入ってくるのはさすがだなと思った。現代のエンタメ性豊かなミステリと比べると物足りないかもしれないけど(これはすでに古典?)、いろいろ読み回って、最後はここにいきつくのではないでしょうか。
読了日:11月07日 著者:横溝 正史
開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU― (ハヤカワ文庫 JA ミ 6-4)開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU― (ハヤカワ文庫 JA ミ 6-4)感想
皆川博子さんがミステリを書いていると知って読んだけど、これはちゃんとした(?)本格ミステリだった。18世紀のロンドン、解剖室、古典言語で書かれた詩…。皆川さんらしい耽美な世界観がよかった。ミステリでも世界観を楽しむという方法もあるのですね。文庫でなくハードカバーで読んだんだけど、それがまたいいと思えるような内容だった。次々出てくる屍体、誰がやったのか、二転三転、それを展開する人間模様。正統派の推理小説でした。書棚に置いておきたい本。
読了日:11月11日 著者:皆川 博子
開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU― (ハヤカワ・ミステリワールド)開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU― (ハヤカワ・ミステリワールド)感想
皆川博子さんがミステリを書いていると知って読んだけど、これはちゃんとした(?)本格ミステリだった。18世紀のロンドン、解剖室、古典言語で書かれた詩…。皆川さんらしい耽美な世界観がよかった。ミステリでも世界観を楽しむという方法もあるのですね。文庫でなくハードカバーで読んだんだけど、それがまたいいと思えるような内容だった。次々出てくる屍体、誰がやったのか、二転三転、それを展開する人間模様。正統派の推理小説でした。書棚に置いておきたい本。
読了日:11月11日 著者:皆川 博子
ハサミ男 (講談社文庫)ハサミ男 (講談社文庫)感想
※ネタバレ書きます。未読の方注意。叙述トリックってやつなのだろうけど、1ページ目でハサミ男が女だとわかってしまっただけに、この本の楽しみの7割くらいが減ったような気がする。それでもさらなくギミックがあるかなと思ってたけど、肝心のなぜハサミ男を真似た犯行がハサミ男よりも先に起きたのか、というところが偶然で済まされているのにはがっかり。そりゃないよ。でも真犯人は意外だった。なので後半は一気の読んで面白かったことは確かです。
読了日:11月21日 著者:殊能 将之
折れた竜骨 上 (創元推理文庫)折れた竜骨 上 (創元推理文庫)感想
感想は下巻に。
読了日:12月02日 著者:米澤 穂信
折れた竜骨 下 (創元推理文庫)折れた竜骨 下 (創元推理文庫)感想
12世紀のイギリス(から離れた孤島)が舞台で、魔法が使えるキャラが登場する、いわゆるファンタジー。だけど、しっかりミステリ。米沢さんの描くミステリは正統派で、骨太で、決してミステリの枠をはみ出さない。だからぼくは(3冊しか読んでないけど)信頼を置いている。これも、魔法が使えるということを利用してのトリックや犯人という展開が本当に面白かった。魔法によって《走狗(ミニオン)》というあやつ入り人形にされ、殺人を犯したのはだれか。フーダニット。楽しい世界観だった。
読了日:12月11日 著者:米澤 穂信
責めず、比べず、思い出さず: 苦しまない生き方 (知的生きかた文庫)責めず、比べず、思い出さず: 苦しまない生き方 (知的生きかた文庫)感想
シンプルで、それだけにしっくりくる内容だった。このタイトルを唱えるだけで心を整えられる。心の病はやはり考えすぎること。自分はだめなやつだと攻め、人と比較し落ち込んで、過去を思い出し、それに心を蝕まれる。こういうことを仏教の理論から諭した本。本当にわかりやすく、仏教に興味があって心に重いものを抱えている人にはお薦めします。仏教本としても秀逸。「念起こる、これ病なり。継がざる、これ薬なり」。これは本当で、脳はなにかと心に毒なことを考えて、悪い連鎖を生むのが常。ふとしたときにこの本をパラパラとめくってみたい。
読了日:12月11日 著者:高田 明和
臨書を楽しむ〈4〉王羲之 蘭亭叙臨書を楽しむ〈4〉王羲之 蘭亭叙感想
書道の勉強用。古典最重要の蘭亭序。筆の運び方の勉強。
読了日:12月21日 著者:成瀬 映山

読書メーター

*1:池澤夏樹=個人編集 日本文学全集28

*2:池澤夏樹=個人編集 日本文学全集28